範囲が不明確な美容師の顔剃り
Posted on | 5月 30, 2022 | No Comments
美容師による顔剃りに対し、京都府の保健所が理容師法に基づき行政指導したことが報じられました。正直、驚きました。
かなり些末な事案だし、美容師の顔剃りについてはその範囲がわかりずらい一面があるからです。京都府は今回の指導のほかにも、エステティックや美容機器などで、他の都道府県の衛生行政と比べると突出して指導や処分の件数が多い。
美容師の顔剃りは、理容師法が施行された翌年の昭和23年に出された通達によるものです。
通達の内容は、
化粧に附随した軽い程度の「顔そり」は化粧の一部として美容師がこれを行つてもさしつかえない。
「軽い程度」「化粧の一部」の条件がついた上で認められたのが美容師の顔剃りです。
理容師法で規定された理容師の顔剃りに対し、美容師の顔剃りは限定的なものとされています。
この通知が出された背景には、当時の業界事業があります。コールドパーマネントが普及する前の時代で、さすがに島田髷や丸髷を結う女性はいないものの、庇髪に代表される束髪の女性は多く、髪結を行う女性美容師がまだ活躍していた時代です。
和髪は毛の生え際の処理が必要です。額や襟足の髪際線を整え、美しく仕上げます。その処理は毛抜きで処理することもありましたが、昭和になってからは剃刀を使って処理するようになりました。
こんな背景があって、美容師が行う襟足、額、眉毛、もみあげなどの毛の処理を念頭において出されたのがの昭和23年通達です。
平成の時代になって、美容業界はこの通達を盾にして顔剃り講習を行い、営業に取り入れようとしましたが、問題となったのは「軽い程度」「化粧の一部」の範囲です。すでに女髪結は数少ない伝統職種となり、新たな解釈が求められる時代になっていました。
経済産業省のグレーゾーン解消制度でも何度か美容師の顔剃りがテーマになりました。厚生労働省の回答は、「「軽い程度の顔剃り」を行うことはできるが、女性客の誘引を目的とするようなシェービングは理容師の業務範囲」(2018年)といった内容です。「軽い程度」は通達と同じです。
厚生労働省に「軽い程度」について問い合わせしたところ、「本格的でない」という答えがかえっってきました。「軽い程度」は「本格的でない程度」、ほぼ同義語です。
「女性客の誘引を目的」が新たに加わりましたが、この内容については、顔剃りをメニューとしたり、宣伝文に顔剃りを明記することが該当する、という。
密かに顔剃りをしていれば、御用にはならないとも受け取れますが、結局のところはどの程度が「軽い程度」なのかはわかりません。
70年以上前に出された通達に振り回されている理美容業界ですが、この間大きくかわった解釈があります。これまで男性=理容師、女性=美容師のジェンダー条項に基づく通知がありましたが、多様化する社会の流れで撤廃され、男性客・女性客別のカット・パーマネントの規制通知が廃止されました。
美容室に行く男性は増えています。美容師は本格的な髭剃りはできないものの、襟付けや髭のラインを整える際剃りは、おそらく問題ないはずです。
美容師の行う顔剃りが今回、指導対象になったわけですが、時代は大きく変わっています。そもそも、ほとんど違いのなくなった理容師法と美容師法をわける必要があるのかを考える時勢になっているようです。
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美容師の顔剃り行為を理容師法違反で行政指導
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昭和23年 厚生省公衆衛生局長通達
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タグ: 理容師法違反, 理美容ラウンジ, 美容師の顔剃り