ぬばたま 髪にかかる万葉の枕言葉
Posted on | 5月 13, 2019 | No Comments
新元号「令和」は、中国の漢籍ではなく、日本の万葉集から採用された元号といいます。その万葉集には髪に関する叙述が少なからずあり、髪にかかる枕言葉として「ぬばたま」があります。
「ぬばたま」とは、黒くて光沢のある、檜扇(ヒオウギ)という植物の種子のことです(写真)。あやめ科に属する植物で、「ぬばたま」は漢字で、射干玉・野干玉・烏玉・烏珠などと書きます。
黒いことから髪の枕言葉として用いられるようになったのでしょう。髪のほかに「黒」「夜」「夢」などの言葉にもかかります。
「ぬばたまの黒髪変り白けても痛き恋には逢ふ時ありけり」
黒い髪が白髪になっても手痛い失恋はするののだ、という意味でしょうか、早い話、老いらくの失恋歌です。
「ぬばたまの妹が黒髪今夜もか我がなき床に靡けて寝らむ」
自分がいない夜に、私の愛しい妻は黒髪を床になびかせて寝ているのだろうか、という恋歌です。
これ以外にも、ざっと拾い出してみると、
居明かして君をば待たむぬばたまの我が黒髪に霜は降るとも
ぬばたまの我が黒髪に降りなづむ天の露霜取れば消につつ
ぬばたまの黒髪山を朝越えて山下露に濡れにけるかも
ぬばたまの黒髪山の山菅に小雨降りしきしくしく思ほゆ
おほならば誰が見むとかもぬばたまの我が黒髪を靡けて居らむ
ぬばたまの我が黒髪を引きぬらし乱れてさらに恋ひわたるかも
ぬばたまの黒髪敷きて長き夜を手枕の上に妹待つらむか
ぬばたまの黒髪濡れて沫雪の降るにや来ますここだ恋ふれば
などなど、続々と出てきます。
枕言葉の「ぬばたま」をつけないで、髪を詠んだ歌はもっと多い。
万葉の人も髪は心情を表現するのに、なくてはならない重要なものとして捉えているのがわかります。
しかも、仁徳天皇の皇后である磐姫が詠んだ、高貴な人の歌から、無名の万葉人が詠んだ歌まで、いろいろな身分の人の歌が収録されていて、万葉の人々が髪に寄せる思いが伝わってきます。
髪は万葉の時代から21世紀の令和の時代にまで脈々と続く、日本人の生活に密着した存在です。
髪に関連づけられた「ぬばたま」、理美容サロンとも関係が深い。この「ぬばたま」を店名につけた美容サロンも何店かあり、「令和」のいま検索できます。
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