断髪令で断髪した女性は少なくなかった

Posted on | 5月 5, 2023 | No Comments

明治4年の断髪令（散髪脱刀令）を受けて、髪を切った女性がいたことは知られています。

当時の新聞には、断髪するのは売春婦らに多いとし、断髪する女性を非難し、女性の断髪禁止を求める論調のものがありました。後年、こられの新聞を引用し、女性の断髪禁止を紹介している書籍が多くあります。

これらの書籍を読むと、断髪した女性はごく限られた人に過ぎなかった印象を受けます。しかし実際は、売春婦に限らず、多くの一般女性も断髪したようです。
一つには、政府が熱心に断髪を奨励したことがあります。もちろん男性の断髪を奨励したのですが、断髪奨励が効きすぎて女性にまで及んだといえます。

明治時代の事典ともいえる『明治事物起源』に女性の断髪について書いた一文があります。同書は、各地で断髪する女性が多く、その取締りを書いた新聞を紹介しています。東京府によって出された婦女子の断髪を禁止する違式註違条例（東京府達）はじめ、各地の取締りです。

違式註違条例というのはいまの軽犯罪法に近い刑罰規定で、断髪した女性に罰金が科されました。ところが断髪した女性が外出するたびに罰金を払うのを避けるために「用捨証」という支払い済み証明書を発給した、といいます。『明治事物起源』では用捨証の申請書などを紹介しています。また国内だけでなく、清国の居留地での女性の断髪を禁止する規則があったことなども紹介しています。
これ以外にも、病気で断髪した女性、後家になって断髪した女性など正当な理由がある場合は、あらかじめ許可をもらうよう指導しました。『明治事物起源』には、その申請書式も掲載しています。

この一文から断髪令後、断髪する女性が相当数いたのがうかがえます。売春婦ら限られた女性だけとはとても思えません。

女性の断髪に対してはほとんどの新聞はそれを非難する論調でしたが、同書は、肯定的な新聞もあったことを紹介しています。金沢で発行されていた『開化新聞』（＊）です。断髪令が出された翌年の明治5年正月の第4号に、当地（金沢）で断髪する婦女子が多くいることを書き、さらに、「櫛、笄の虚飾、油元結などの無駄を去る」として経済的な面から断髪を評価しています。後年の婦人束髪会が主張した論旨に通じるものがあります。

断髪令後、断髪を躊躇する男性が少なくなかった一方、すすんで断髪する女性が多くいた。そして、ちょっとした混乱があったのがうかがえます。

＊）『開化新聞』：明治4年（1871）、吉本次郎兵衛が金沢で創刊した新聞。正式名称は『官許開化新聞』。後の『石川新聞』

関連する投稿

• 月代を伸ばしてから断髪？
• 丁髷からザンギリへの移行法

Comments