『浮世床』に描かれた「垢油買い」|江戸時代のリサイクル文化
Posted on | 8月 25, 2025 | No Comments
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式亭三馬の『浮世床』は、床主・鬢五郎を狂言回しとした笑話で、床にはさまざまな人々がやってきます。
櫛を売りに来た櫛吉と値段交渉がまとまらず、櫛吉が帰ったあと、入れ替わりに現れたのは股引姿の男でした。
その男は「お寒うございます」と愛想を言いながら、「アイ、まだ出てきませんか」「ハイハイ、さようなら、また今度」と床をのぞき込み、鬢五郎に声をかけただけですぐに立ち去ります。式亭三馬はト書きで「油の垢買いのようで、カゴをかかげて走り去る」と記しています。
この男は、髪を梳いた際に櫛に付着する垢まみれの鬢付け油を買いに来た、もしくは譲り受けに来たと考えられます。垢油が具体的に何に使われたのかは定かではありませんが、何らかの用途があったことは確かです。来てみたものの、もらえるほどの量がなかった、ということでしょう。
江戸時代は、あらゆるものを大切にし、最後まで使い切るのが当たり前でした。利用できるものは徹底して再利用しました。代表的な例が糞尿の買い取りです。近郊の農民が町家や屋敷、長屋を訪ねて買い取り、大家にとってはちょっとした収入源になったといいます。
着物は仕立て直しを重ね、布切れになるまで使われ、最後は灰として利用されました。そのために「灰買い」「紙屑買い」などが江戸の町を歩いていました。そうした中に「垢油買い」もいたと考えられます。
思えば、戦後の昭和の混乱期にも似たような出来事がありました。物資が乏しい時代、理容店で出た髪の毛を買い取る業者が存在しました。集められた髪の毛はアミノ酸醤油の原料として販売されていたといいます。髪がタンパク質でできているため、そのような用途があったのです。
髪の毛は実に多様な活用が可能です。現代ではアミノ酸醤油の原料としては適していないかもしれませんが、髪の毛は油分を多く含むため、タンカー事故で原油が流出した際の吸収材として利用されることもあります。近年では「ヘアドネーション」として社会貢献に役立てられています。
それにしても、式亭三馬が描いた「垢油」は、いったい何に使われていたのでしょうか。
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