「老化菌」が肌に炎症を引き起こす可能性|コーセーとミルボンの共同研究で解明
Posted on | 6月 9, 2025 | No Comments
人間の皮膚には数百種類もの常在菌が存在し、それぞれが肌の健康と密接に関わっている。こうした中、株式会社コーセーと株式会社ミルボンによる共同研究により、皮膚常在菌のひとつであるエンテロコッカス菌が肌の炎症を引き起こす可能性があることが明らかになった。
エンテロコッカス菌は腸内などに多く存在する細菌で、これまで皮膚上では注目されてこなかった。しかしミルボンの研究により、この菌が頭皮の硬さや毛髪のうねりといった加齢に伴う変化と関連していることが判明。これを「老化菌」と名付け、さらに研究を進めた結果、顔の肌にも影響を及ぼしていることが分かってきた。
今回の研究では、20~70代の日本人女性220名を対象に、顔の皮膚にエンテロコッカス菌が存在するか否かでグループを分け、水分量や皮脂量、シワやシミといった肌状態の比較を行った。その結果、菌が存在するグループでは目の下のシワスコアが大きく、鼻のテカリスコアも高い傾向が見られた。これにより、エンテロコッカス菌の存在が肌の老化や炎症と関係している可能性が示唆された。
さらに詳細な解析のため、研究チームは表皮細胞とエンテロコッカス菌を共に培養し、細胞の生存率や遺伝子発現の変化を調べた。その結果、エンテロコッカス菌が共存することで表皮細胞の生存率が有意に低下することが確認された。興味深いのは、この現象が同じ常在菌である表皮ブドウ球菌では見られなかった点だ。
加えて、菌の代謝物を含む培養液や死菌を用いた検証では、表皮細胞に影響が出なかったことから、生きたエンテロコッカス菌に特有の作用であることが裏付けられた。さらに遺伝子解析では、炎症に関与するサイトカインであるIL-1αやTNF-αなどの発現が増加していることが判明。これにより、同菌が肌に炎症を引き起こすことが科学的に示された。
炎症は、老化を加速させる主要な因子の一つである。つまり、エンテロコッカス菌を多く有する肌では、炎症が慢性的に続くことで老化が進行しやすいと考えられる。こうした「菌と肌老化の関係」の可視化は、美容・スキンケア分野において新たなアプローチをもたらす可能性がある。
さらに本研究では、アジア伝統の薬草である「エンメイソウ(延命草)」のエキスが、エンテロコッカス菌による炎症反応を抑制することも確認された。コーセーとミルボンは、今後このエキスを応用した製品開発を検討するとともに、肌と常在菌の関係性を深める研究を継続する予定だ。
本研究は、表面的なスキンケアだけでなく、皮膚常在菌のバランスに着目するという点で、次世代の美容研究への道を切り開くものである。炎症や老化のメカニズムに新たな知見を与える本成果は、将来的にパーソナライズドスキンケアの実現にもつながる可能性を秘めている。
タグ: コーセーミルボン, 皮膚常在菌, 美容サイエンス