角層の保水力を飛躍的に向上 ポーラ化成の新・保湿技術
Posted on | 6月 1, 2025 | No Comments
ポーラ・オルビスグループの研究開発を担うポーラ化成工業株式会社は、肌の角層に存在する細胞間脂質内の水層に着目し、その水分保持容量を拡張することで肌のうるおいを飛躍的に向上させる新技術を構築した。
この水層は、肌における“うるおいタンク”として機能しており、これを大きくすることで角層が水分をより多く抱え込み、ハリのあるふっくらとした肌へ導くという発想だ。
従来のスキンケアでは、角層への浸透性に優れた成分や肌なじみの良い成分を用いることで、保湿を実現してきた。しかし、肌がそもそも保持できる水分量には物理的な限界がある。そこでポーラ化成は、肌構造そのものにアプローチし、保湿の“器”自体を大きくすることに挑んだ。
細胞間脂質は、水になじむ「水層」と油になじむ「油層」が交互に並ぶ層構造をもっており、水層は角層内で水分保持の中心的役割を果たしている。ポーラ化成はこの水層の“厚み”、すなわち面間隔を拡張することで、角層が保てる水分量=うるおいタンクの容量を大きくしようと考えた。
<細胞間脂質のモデルとして、トリイソステアリン酸PEG-20グリセリル、2-エチルヘキサン酸セチル、水を混合し使用>
このアプローチを実現するため、同社は水層と油層の境界に安定して留まり、かつ水分を多く抱え込める機能性成分を選定した。この成分を配合した試作の化粧水を用いて、人工的に再現した細胞間脂質に水を徐々に加えながら、SAXS(小角X線散乱)という機器で水層の面間隔を測定した。その結果、配合前と比べて水層の面間隔が約125%に広がったことが確認され、水分保持容量が大幅に向上していることがわかった。
さらに、この新技術は肌の弾力にも良い影響を与えることが示唆された。細胞間脂質がうるおいを含むことで、角層全体が膨潤し、肌のハリや弾力が高まると考えられる。実際に、レオメータという弾力測定装置を用いて、機能性成分を配合したサンプルの弾力を測定したところ、未配合のものに比べて弾力が約8倍に高まるという結果が得られた。
このように、肌の構造的要素である水層そのものの拡張によって、従来にない次元での保湿と弾力向上が実現された点が、本技術の革新性である。これにより、肌表面に一時的なうるおいを与えるのではなく、角層内部から満たされた真のハリ肌を実現する新たなスキンケアが可能になると考えられる。
なお、今回の技術で用いられたSAXS測定は、試料の構造を非破壊で高精度に解析できる手法であり、水層の厚み変化をリアルタイムに捉えるのに適している。また、弾力測定に使われたレオメータは、実際の肌に近い弾性挙動を再現する上で有用であり、両者の併用により技術の確かな裏付けが得られた。
ポーラ化成工業は、今回の研究成果を化粧水をはじめとするスキンケア製品やメークアップ製品など、多様な製品に応用していく予定だ。肌構造の本質に向き合い、角層からうるおいとハリをもたらすこの新技術は、今後の製品開発に大きな可能性をもたらす。今後も同社は、お客様のニーズに応えた技術開発を進めていく構えだ。
タグ: ポーラ, 細胞間脂質, 美容サイエンス