オッカムの剃刀 “削ぎ落とす”という知恵
Posted on | 5月 31, 2025 | No Comments
最近、「オッカムの剃刀(カミソリ)」という言葉を目にする機会が増えました。
シェービングや理容を思わせるこの語句ですが、実は無関係です。哲学や科学における、ひとつの思考法を表す比喩表現です。
意味はいたってシンプル。「ものごとは、より単純な説明のほうが正しい可能性が高い」。つまり、余分な仮定や複雑な要素をできる限り削ぎ落とし、本質だけを見極める――そんな思考の手法です。
“剃刀”という言葉が使われるのは、冗長なものを切り捨てるイメージからです。「ナイフ」でも通じそうなところですが、“剃刀”のほうが研ぎ澄まされた印象があるのかもしれません。
この思考法を提唱したのは、14世紀のイギリス・オッカム村に生きた修道士ウィリアム。彼の名と出身地にちなんで「オッカムの剃刀」と呼ばれるようになりました。神学者でありながら、合理性を重んじたその考え方は、やがて科学や哲学の世界にも大きな影響を及ぼしていきます。
たとえば統計学の重回帰分析でも、必要最小限の説明変数を選ぶときに「オッカムの剃刀」が登場します。複雑なモデルよりも、シンプルなモデルの方が現実をよく説明することがあるのです。
この概念を詳しく紹介しているのが、『世界はシンプルなほど正しい』(ジョンジョー・マクファデン著/水谷淳訳・光文社)。帯にはこう書かれています。「中世の神学者が命がけで提唱し、地動説、進化論、量子力学など、さまざまな科学革命を可能にした“思考の道具”の物語。」まさに“剃刀”が世界を切り開いた歴史が語られています。
理容とは無縁の「オッカムの剃刀」。けれど、不要なものを削ぎ落とし、本質を際立たせるという点では、確かに“剃刀”と呼ぶにふさわしいのかもしれません。
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