肌老化に新アプローチ!ビタミンCが細胞増殖を促す仕組みを解明
Posted on | 5月 1, 2025 | No Comments
ビタミンC(L-アスコルビン酸)がDNAの脱メチル化を介して表皮の細胞増殖を促進し、表皮の厚みを増加させるという新たなメカニズムが明らかとなった。
さらに、皮膚におけるビタミンCの役割として、「エピジェネティクス制御による細胞増殖」が加わることで、肌老化への新たな介入手段となる可能性が示された。これにより、スキンケア分野においても新たな戦略の展開が期待される。
本研究成果は、ロート製薬株式会社が東京都健康長寿医療センター研究所、北陸大学薬学部との共同研究により明らかにし、2025年4月30日に発表した。
なお、エピジェネティクスとはDNAの塩基配列を変えることなく、どの遺伝子を活性化・不活性化するかを制御する仕組みである。細胞はこの仕組みによって自らの性質を維持し、外部環境に応じた柔軟な応答を可能にしている。近年では老化や疾患との関連性も明らかになってきており、重要な研究領域となっている。
研究成果のポイント
・ ビタミンCが表皮角化細胞の増殖を促進し、表皮細胞層の厚みに寄与することを確認
・ ビタミンCは細胞増殖に関連する遺伝子のDNA脱メチル化※1を介して、表皮角化細胞の増殖を促進することを発見
・ 皮膚におけるビタミンCの役割に「エピジェネティクス制御による細胞増殖」が加わり、肌老化への新たな介入法となる可能性を示唆
結果
ヒトの表皮を模したヒト三次元培養表皮モデルを構築し、表皮角化細胞におけるビタミンCのエピジェネティック制御に関する役割を調べました。その結果、細胞にビタミンCが取り込まれると、表皮の厚み、細胞の増殖、およびDNA脱メチル化の指標である5-ヒドロキシメチルシトシン(5-hmc)が増加しました。
また、この効果はDNA脱メチル化酵素の阻害剤により減弱しました。
以上の結果により、ビタミンCがTET依存的にDNA脱メチル化を促進していることが明らかになりました。
さらに、ビタミンCがどのように遺伝子を制御しているかを調べるため、マイクロアレイ解析および全ゲノムバイサルファイトシーケンス(WGBS: Whole-genome bisulfite sequencing)解析を行いました。その結果、細胞増殖に関連する12遺伝子の発現がビタミンCにより増加することがわかりました。
考察
本研究により、ビタミンCがTET酵素を介してDNAの脱メチル化を促進し、それにより表皮細胞の増殖や表皮構造の厚みを増加させることが考えられます。さらに、増殖関連遺伝子の脱メチル化と発現促進が示されたことから、エピジェネティクスの観点からも表皮におけるビタミンCの新たな意義が見出されました。ビタミンCがもつ抗酸化作用にとどまらず、新たに“エピジェネティック制御”という生体内で起こりうる機能に注目したものであり、肌の老化やバリア機能の低下といった課題への根本的なアプローチに繋がる可能性があります。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究は、エピジェネティクスという可逆的な遺伝子制御メカニズムを介して、ビタミンCが表皮に与える影響を包括的に示しました。エピジェネティックな変化は、皮膚に存在する多様な細胞の運命を時空間的に制御しており、可逆的であることから、加齢に伴う細胞機能の変化を再構築する手段として注目されています。本研究により、ビタミンCによるエピジェネティック制御を活用した臨床応用やスキンケアへの新たな戦略の可能性が示唆され、生活の質(QOL)の改善とともに、心身ともに健康で豊かな健康長寿社会の実現に貢献すると期待できます。
なお、本研究成果は、2025年4月20日に米国科学誌「Journal of Investigative Dermatology」(電子版)に掲載された。
タイトル:Vitamin C promotes epidermal proliferation by promoting DNA demethylation of proliferation-related genes in human epidermal equivalents
※1 DNA脱メチル化
DNAの塩基のひとつである「シトシン」に付加されたメチル基(CH₃基)が取り除かれることで、遺伝子の働き(転写)が促進されやすくなる変化を指す。通常、メチル化されたシトシンは5-メチルシトシン(5-mC)と呼ばれ、これは遺伝子を“オフ”の状態に保つ役割を持つ。
ビタミンCなどの働きにより、この5-mCがTET酵素によって5-ヒドロキシメチルシトシン(5-hmC)に変換されることで、メチル化が解除(脱メチル化)され、遺伝子が再び“オン”になる準備が整う。
このように、5-hmCはDNA脱メチル化のマーカーとしても知られている。
タグ: ロート製薬, 美容サイエンス, 肌老化