皮膚免疫細胞が老化を予防
Posted on | 10月 9, 2024 | No Comments
皮膚にそなわっている皮膚免疫細胞が老化した細胞を除去し、老化を予防していることが新たに発見された。
資生堂がマサチューセッツ総合病院皮膚科学研究所との共同研究で発見し、2024年10月8日発表した。
これまで老化細胞は、年齢とともに蓄積すると考えられていたが、老齢の皮ふにおいても必ずしも老化細胞が多いわけではなく、免疫細胞の一種であるCytotoxic CD4+ T細胞 (以下: CD4 CTL、※2)が老化細胞の蓄積抑制に強く関わっていることを明らかにした。
また、CD4 CTLが老化細胞の蓄積を抑えるメカニズムとして、老化細胞内で活性化したヒトサイトメガロウイルス(以下: HCMV) ※3の一部分(抗原)が老化細胞の表面に出現することで、それをCD4 CTLが認識し、老化細胞を選択的に除去していることを世界で初めて発見しました(図1)。
研究成果は2023年3月30日にCell誌※4に掲載された。
※2 Cytotoxic CD4+ T細胞(CD4 CTL):T細胞の一種で、理想的な健康長寿のモデルとされる超長寿者に多い免疫細胞であることも知られている
※3ヒトの多くが幼少時に感染し、ほとんどが無症状で、生涯にわたって潜伏感染しているウイルス
※4生命科学分野において世界最高峰の学術雑誌
《研究背景》
老化細胞は、加齢とともに体内で徐々に増加し、慢性炎症状態を誘発、継続することで、老化や老化関連疾患を促進していると考えられています。しかし、ヒトのさまざまな臓器における老化細胞の蓄積の状況やそれを抑制するメカニズムはいまだ解明されていないことが多くあります。私たちは、皮ふの健康を保つためには、ヒトの皮ふにおける老化細胞除去の生理的なメカニズムを探ることが重要であると考え、本研究を進めました。
《発見1:老齢の皮ふでは、年齢とともに老化細胞は増加していない》
最初に、ヒトの皮ふ組織において、加齢とともに老化細胞が蓄積されるかどうかを調査した結果、若齢の皮ふと老齢の皮ふを比べると、老化細胞が有意に増加していることがわかりました(図2)。一方で、老齢の皮ふだけで見てみると、50代から70代にかけて、加齢に伴って老化細胞は有意には増加していないことが分かりました(図3)。このことから、老齢における老化細胞の蓄積は、何らかの要因によって抑えられている可能性が示されました。
《発見2:免疫細胞の一種であるCD4 CTLが老化細胞を選択的に除去する 》
老齢の皮ふにおいて老化細胞の蓄積を抑える要因を探ったところ、老齢の皮ふでは、免疫細胞の一種であるCD4 CTLが多いほど老化細胞が少なく、CD4 CTLが老化細胞の蓄積を抑えている可能性が示唆されました(図4)。そこで、実際にCD4 CTLが老化細胞を除去できるかどうかを調べるため、正常な線維芽細胞(正常細胞)と老化した線維芽細胞(老化細胞)をヒトの皮ふから分離した免疫細胞と共に培養したところ、CD4 CTLによって老化細胞が選択的に除去されることが確認されました(図5)。
《発見3:ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)がCD4 CTLの老化細胞除去を助ける》
次に、CD4 CTLがどのようなメカニズムで老化細胞だけを除去するのかを探った結果、老化細胞内に共生しているHCMVというウイルスの一部分(抗原)が老化細胞の表面に出現し、CD4 CTLがその抗原を目印として認識することで老化細胞を除去していることを発見しました(図6)。
本研究により、皮ふの免疫細胞の新たな機能として、老化細胞の除去という働きを明らかにしました。今後はこれらの知見をもとに、皮ふにおける老化細胞の蓄積を防ぐ免疫細胞に着目し、老化に根本からアプローチする革新的な価値を創出します。
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