まつ毛施術で内部タンパク質が流出
Posted on | 1月 8, 2024 | No Comments
コーセーとミルボンの共同研究
目元の印象を大きく左右するまつ毛は、長く、太く見せる施術が広く行われているが、その影響が解明された。
コーセーとミルボンの共同研究で、まつ毛内部のタンパク質が流出することを見出した。
この研究は「化学的・物理的処理に伴うまつ毛の特性変化」のタイトルで、昨年11月に開催された「2023年 繊維学会研究発表会」で発表された。
この研究では、タンパク質が流出したまつ毛に対する補修成分の効果を確認した、という。
【研究の背景】
まつ毛は目元の印象を大きく左右することから、長く、太く見せる需要は高く、まつ毛専用の美容液等が多く上市されています。また、まつ毛を上向きにカールさせるために、アイラッシュカーラーを用いてまつ毛を物理的に変形させる化粧法が一般化しており、化学的処理によってまつ毛をカールセットする手法も存在します。
これらの手法は少なからずまつ毛に負担をかけることが予想されますが、これまでその影響についての詳細な研究はあまり行われていませんでした。しかしながら、美しく健やかなまつ毛を保ち、上向きにカールさせたまつ毛で華やかな目元の印象を楽しみ続けていただくためには、美容習慣に伴って生じるまつ毛のダメージを詳細に捉え、適切なケア方法を確立する必要があると考えました。
そこで今回我々は、まつ毛を上向きにカールさせるための物理的・化学的手法が、まつ毛に与えるダメージについての研究に着手しました。世の中に先駆けた研究開発で新しい化粧品を生み出し続けるコーセーと、美容室専売メーカーとして毛髪研究に長年取り組むミルボン、互いの研究領域の強みを活かすことで、ダメージ現象の解明と、適切なケアを行うための補修成分の選定に取り組みました。
【研究の成果】
1.物理的・化学的カールによるキューティクルの損傷を確認
物理的・化学的にカールさせる手法がまつ毛に与える影響を調べるため、電子顕微鏡での観察を行いました。その結果、繊維形状の変形や表面のキューティクル損傷が見られ、特に化学的カール履歴あり群ではキューティクル損傷が顕著でした(図1)。
2.化学的カール履歴あり群では、まつ毛のタンパク質が流出していることを確認
電子顕微鏡での観察で特に損傷の激しかった化学的カール履歴あり群のまつ毛では、表面のキューティクルだけでなく、まつ毛内部にまで影響を生じているのではないかと考えました。
まつ毛は頭髪と同様、そのほとんどがタンパク質で構成されています。頭髪においては、化学的カール処理によるダメージでタンパク質同士の結合が切れ、その後日々の洗浄によってタンパク質が髪の外に流出してしまうことが知られています。タンパク質の流出は、毛髪繊維の強度低下を招き、髪の弾力やハリコシが失われることにつながります。
今回、まつ毛内部のタンパク質の状態を顕微FT-IR法によって調べたところ、化学的カール履歴あり群のまつ毛ではタンパク質量が少なくなっていることがわかり、タンパク質がまつ毛の外に流出していることが示されました。またその結果について、大型放射光施設SPring-8のBL43IRを用いた詳細な可視化を行うことでも確認しました(図2)。
図2 カール履歴なし群と化学的カール履歴あり群のまつ毛内部のタンパク質分布
タンパク質のアミド結合*6に由来するピークの強度を解析した結果、化学的処理による流出が示された。
3.まつ毛に対する補修成分の効果を確認
内部タンパク質の流出に対応するため、補修成分の検討を行いました。化学的処理と洗浄処理を行ったダメージまつ毛に対し、タンパク質の材料であるアミノ酸から作られ浸透性に優れた成分ジラウロイルグルタミン酸リシンNaを1,3-ブチレングリコールと共に作用させたところ、成分がまつ毛の内部にまで浸透したことを示す結果が得られました(図3)。
図3ダメージまつ毛に対して補修成分を作用させた結果
補修成分を作用させたまつ毛ではアミド結合に由来するピークの強度が向上しており、アミド結合を有するジラウロイルグルタミン酸リシンNa等の成分がまつ毛内部に浸透していることが示された。
【今後の展望】
まつ毛を上向きにカールさせる際のダメージを補修し、長さや太さだけでなく、理想のまつ毛デザインを楽しみ続けられる製品の開発につなげてまいります。
<用語解説>
大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最⾼性能の放射光を⽣み出すことができる理化学研究所の施設。SPring-8の名前は Super Photon ring-8 GeV(80 億電⼦ボルト) に由来。放射光とは、電⼦を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁⽯によって進⾏⽅向を曲げた時に発⽣する強⼒な電磁波のこと。SPring-8 では、この放射光を⽤いてナノテクノロジー・バイオテクノロジー・産業利⽤まで幅広い研究が⾏われている。
BL43IR
SPring-8において、放射光を用いて実験を行うための設備を「ビームライン」(以下BL)と呼ぶ。BL43IRはBLのうちのひとつであり、 高輝度な赤外光によって、一般的な顕微FT-IRでは達成できない微小領域・微小試料の測定・解析を可能としている。本研究の一部は、(公財)高輝度科学研究センターの産業利用一般課題2023A1463として、本BLを用いて行われた成果である。
アミド結合
タンパク質は多数のアミノ酸が結合してつながることで構成されており、アミノ酸同士をつなぐ結合をアミド結合という。
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