理研とポーラ化成、ヒト毛周期の分子メカニズムを解明
Posted on | 9月 6, 2025 | No Comments
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理化学研究所(理研)生命機能科学研究センターの藤原裕展チームディレクターと、ポーラ化成工業株式会社フロンティアリサーチセンターの横田絢副主任研究員らの共同研究チームは、ヒト毛周期の時系列的な1細胞遺伝子発現解析手法を開発し、これまで未解明だった皮膚組織の再構築メカニズムの一端を明らかにした。
本研究成果は、毛周期関連疾患の新たな治療法の開発や、再生医療の基盤づくりにつながることが期待されている。

毛を生み出す毛包は、成体に存在する数少ない再生器官の一つだ。生涯を通じて休止期・成長期・退行期を繰り返し、毛の生成と組織再生を担っている。しかし、毛周期に関与する細胞やその相互作用については不明な点が多く残されてきた。
共同研究チームは、毛包を一つだけ含むヒト皮膚組織片19個を用い、1細胞ごとの遺伝子発現データを取得した。各データを比較・解析することで、毛周期の流れを再現する「疑似毛周期」を構築し、直接観察が難しい毛周期に伴う細胞の変化を時系列的に追跡することに成功した。

解析の結果、皮膚には少なくとも16種類の細胞が関与し、それぞれの細胞が休止期・成長期・退行期で異なる遺伝子発現を示すことが明らかになった。特に退行期では、細胞間コミュニケーションが活発化し、毛包の周囲で細胞外マトリックス(ECM)の分解と再構築が同時に進行することが示された。これにより、古い組織を取り除き、新しい構造を形成する仕組みが明確になった。
さらに、毛包周囲の線維芽細胞、血管内皮細胞、白血球が退行期の再構築に重要な役割を担っていることが判明した。特に線維芽細胞は、毛包角化細胞からの信号を受けてECMの分解と新生を担い、毛包の痕跡を埋めるように皮膚を再形成することが分かった。これは、毛髪の生え変わりと同時に皮膚そのものが動的に再構築される現象を示すものだ。

今回の成果は、科学雑誌『Cell Reports』オンライン版に掲載された。ヒト組織の周期的な変化を高解像度で解析できるこの手法は、毛周期研究にとどまらず、概日リズムなど他の生体リズム研究にも応用できると考えられている。
理美容業界にとって、毛周期の理解は薄毛や脱毛症などの対策に直結する重要なテーマだ。今回の研究は、毛周期の根幹を分子レベルで可視化し、将来的には毛髪疾患の新規治療法や頭皮ケア商品の開発に活用できる可能性を秘めている。髪の生え変わりを担うメカニズムの全貌に迫ることで、美容科学と臨床応用の橋渡しとなる成果といえるだろう。
タグ: ヒト毛周期, ヘアサイクル, 美容サイエンス

























