『音のない理髪店』(一色さゆり)
Posted on | 11月 15, 2024 | No Comments
『音のない理髪店』(講談社、著・一色さゆり)。
「私の祖父は“日本で最初の、ろう理容師”です」。
2015年『神の値段』で第14回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した作者が描いた「時を超えて思いがつながっていく、実話に基づく物語」。3代にわたる想いをつなぐための取材から始まる物語で、取材でみえてくる祖父の多面的な実像。ミステリー的なドラマの中に祈りや願いが込められている。
作中、祖父は日本で最初に創設された聾学校理髪科(現「徳島県立徳島聴覚支援学校」)の第一期卒業生で、徳島市内に理髪店を開業した、としている。
戦前は弱者保護の観点から、視覚障碍者は按摩業、ろうあ者は理美容業などに優先的に就ける配慮があった。前者は江戸時代から続く保護策である。
明治になって西洋理髪が普及すると、資格制度のない当時、ろう理容師が働いていたのは想像できる。
「徳島県立徳島聴覚支援学校」の沿革をみると、同校に理髪科が設置されたのは昭和8年(昭和26年に厚生省認可の理容師養成施設)。
書籍の帯にある「私の祖父は“日本で最初の、ろう理容師”です」は、聾学校理髪科卒として最初のろう理容師のことだろう。
余談はともかく、いま注目されている読み物である。
『音のない理髪店』(講談社)
著:一色 さゆり
発売日:2024年10月23日
定価:1,980円(本体1,800円)
ISBN:978-4-06-537325-5
判型:四六変型
ページ数:288ページ
初出:小説現代2024年7月号
タグ: ろう理容師, 本の紹介