毛髪胃石が招くラプンツェル症候群
Posted on | 8月 3, 2019 | No Comments
「トリコチロマニア」(Trichotillomania)は「抜毛症」とも「抜毛癖」ともいいます。「トリコチロ」=抜毛、「マニア」=一つのことに異常に熱中する人(広辞苑)。病気と癖の中間ぐらいと思っていましたが、れっきとした病気で、衝動制御障害に含まれる精神障害の一種といいます。
「トリコチロマニア」だった皮膚科医の大塚篤司さんという、京都大学医学部特定准教授が『AERAdot.』(2019年8月2日)に、「ストレスで髪の毛を抜いてしまう「抜毛癖」 皮膚科医が実際に取り組んだ三つの改善法とは?」というタイトルで抜毛症に関する所見を伝えています。
健康毛を抜くと痛い。ところが大塚さんは抜くことが非常な快感だったといいます。抜毛症の人にとって毛を抜くことは快感行為なのです。前述の衝動制御障害には窃盗癖や万引き癖、放火癖、賭博癖などがあります。おそらく、窃盗、万引き、放火、賭博もその行為は快感がともなうのでしょう。困った癖です。
抜毛症も困った癖には違いありませんが、幸い人に迷惑をかけることはありません。
抜毛症と併発して、抜いた毛を食べてしまう食毛症があります。毛がおいしいと感じて食べるのか、毛を食べる行為そのものが快感なのかはわかりませんが、これは病気です。抜毛症では毛が抜けてしまい見た目は悲惨な状態になりますが、それだけです。しかし食毛症は、食べた毛がまとまり、大きくなって、腸に詰まり、消化器傷害をおこすことがあります。ラプンツェル症候群(Rapunzel Syndrome)といいます。
毛髪は、硬質タンパク質のケラチンでできています。ケラチンは非常に頑強な構造をしていて、胃液や消化液で消化されることはありません。
腸内には多種の腸内細菌が存在しますが、ケラチンは限られたバクテリアと真菌類が分解できるだけで、腸内では分解されません。
また毛髪の表面はキューティクルでおおわれていて、この凹凸によって毛同士が絡み合ってまとまります。消化されずに絡み合ったままの毛は胃液や粘液、さらに腸内の食べ物と結びあって石のように固まります。これを「毛髪胃石」といい、この「毛髪胃石」が大きくなると、腸閉塞や潰瘍などをおこします。これがラプンツェル症候群です。
抜毛症の原因は、大塚さんが『AERAdot.』で示した通りストレス説が古くからいわれています。最近では神経細胞と脳の伝達に原因があるという研究も有力視されています。化学的な物質による伝達情報の支障です。
しかし、ストレスや不安が解消されると改善する例もあり、やはりストレス説は捨てきれません。
抜毛癖に類する癖として爪をかむ癖などもあり、これらの癖のある人は、心の助けを求めてる人かもしれません。
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