美容師のまつ毛エクステンション
Posted on | 3月 11, 2012 | No Comments
「まつ毛エクステンションは美容師でなければできない」との課長通知(平成20年)が出されて、美容の業権拡大、増収に大いに期待した美容師さんは多いと思う。まつ毛エクステンションをすでに手がけている美容師さんは人一倍だろう。
ところが全美連の三根卓司理事長は平成24年1月の全美連理事会で、まつ毛エクステンションに慎重な姿勢を示した。これには理由がある。それは、まつ毛エクステンションについて審議している検討会の経過をみればわかる。
そもそもまつ毛エクステンションが問題になったのは事故件数が多いからだ。課長通知が出された以上、美容師以外の無資格者が施術をするのはもってのほかだが、美容師だから事故が起きないという保証はない。何しろ美容学校ではまつ毛エクステンションを教えていないのだから。
検討会での審議を受けて、日本理容美容教育センターでは平成24年度の教科書からまつ毛エクステンションを記載したテキストを発行するが、わずか2ページだ。これでは覚束ない。だいいち美容学校でまつ毛エクステンションを教えられる教員はいるのだろうか?
まつ毛エクステンション以外にも美容、理容の業権を侵害している営業行為は多いが、それほど問題にはならないのは、事故が起きていないからだ。
では、まつ毛エクステンションの事故件数はというと、PIO-NETへの相談件数では2009年までの6年間で156件。日本眼科医会・医療対策部による調査では、2010年までの6年間で回答のあった57の医療施設で206件を数える。また平成23年1月1日から3月31日までの3ヶ月間で、回答のあった16施設全てでまつ毛エクステンションによる被害が報告されている。その内容は、角膜びらん、眼瞼皮膚炎、急性結膜炎などの障害が多い。実際の事故件数はもっと多いと推測される。
つまり、現在行われているまつ毛エクステンションは健康被害が多発しており、検討会では危険極まりないと認識されている。
もし、現在行われているまつ毛エクステンションと同程度の施術を美容師が行ったとしても、健康被害が発生するのは目に見えている。
検討会では、医師の構成員から毛髪や皮膚に対する安全基準と、眼に対する安全基準は全く違うことが指摘されている。毛髪や皮膚への施術なら消毒レベルの衛生処置でもいいが、眼となると殺菌・滅菌レベルが必要で、検討会では高圧滅菌装置という言葉が再々登場している。施術を行う美容師の手指も1客ごとの殺菌消毒が必要だ。また使用する接着剤も医療用のものが求められている。
通常の美容の施術と違い、まつ毛エクステンションでは医療レベルの衛生基準が求められているのだ。
しかも、これらの基準を満たしても施術対象が眼となると、不測の事故が起こる可能性がある。そんな事態に備え、眼科医との連携の必要性も指摘されている。
課長通知に叶うまつ毛エクステンションを美容師が行うのは容易ではない。また、まつ毛エクステンションそのものも日本人特有の一過性の流行でしかないかもしれない。そんな状況の中での三根卓司理事長が下したのが、前述の慎重姿勢である。
検討会では、医師の構成員は眼の周辺への施術は危険が伴うだけに、まつ毛エクステンションを行うこと自体を反対しているのだが、消費者団体代表の女性構成員は自らの実地体験をもとにまつ毛エクステンションを高く評価している。おしゃれに敏感な若い女性のニーズは高い。
一方、美容業界では、いま業界が不況下にあるだけにまつ毛エクステンションを積極的に導入することを模索している美容師さんもいる。組合組織ではできなくても任意団体としてなら行動しやすい。
せっかくの課長通知に美容業界が無反応というのはいかがなものだろう?
積極的に取り組むのも美容業界の一つの判断といえる。ただし、その前提として、前述のような衛生処置や不測の事態に備えた対応策を整えることがまず必要だ。
喜び勇んで慌てて、まつ毛エクステンションを取り入れても、「美容師がまつ毛エクステンションで事故」などの見出しが一般紙に躍るような事態になっては、美容師の信頼は失墜するばかりだ。まつ毛エクステンションを美容師の業権とした厚生労働省の面目も丸つぶれだろう。
さすが美容師のまつ毛エクステンション、といわれるような安全・施術基準、バックアップ体制の構築を期待したい。
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